都建幸会 心療内科・精神科

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東洋医学と西洋医学からみた不眠症・うつ病

不眠症・うつ病とは、何らかの要因で睡眠の質が慢性的に悪化し、体の自然な治癒力・回復力が妨げられた状態を指します。

本来、人の体は、睡眠をとることで疲れや体の痛みなど体調を回復するように出来ています。ですから疲れていても、体が痛くても、一晩寝ると翌朝には回復します。それがひとたび不眠症やうつ病になると、全く眠れないか、眠りが浅く長時間寝ても疲れが取れない、痛みが続くなど体調がずっと悪いという状態に陥ります。

よくある症状が、慢性的な肩こりと首筋の痛み、頭痛、全身的な疲労・倦怠感、腰痛、息苦しさや胸のつかえ、動悸、めまいや吐き気、微熱や咳などです。いずれも不眠症やうつ病から来る体調不良で、初期だと少し休養をとるか、軽めの睡眠薬を飲むだけで症状は回復します。しかし、十分な治療を受けずにこじれてしまうと体内のホルモンであるドーパミンやセロトニンのバランスが崩れ、簡単には治らなくなります。はじめは身体的な症状が主ですが、重症になると、涙もろさや自責感、表情の硬さ、消えたい・死にたいといった自殺願望など、今度は精神面の症状が目立ってきます。

この不眠症・うつ病は、昔はノイローゼや神経症とも呼ばれていました。他には、自律神経失調症、慢性疲労症候群、慢性疼痛、神経痛とも呼ばれています。「お疲れ様」が共通の挨拶になるぐらい疲れきっている日本人。不眠症やうつ病の患者数は年々、増え続けています。

東洋医学でみた不眠症・うつ病

「七情の乱れ」→不眠→「肝の障害」(イライラと背部痛)

三千年の歴史があるとされる東洋医学では、「七情の乱れ*」があらゆる病気を引き起こすと考えます。今風に言うと、感情の乱れです。人間なので感情を持つことは当たり前ですが、度が過ぎると心身に悪影響を及ぼします。まず、最初に眠れなくなります。気になることがあると、また感情が高ぶって、なかなか寝れない。

一日、二日なら大丈夫ですが、これが続くと、東洋医学でいう「肝臓*」が十分な機能を果たさなくなります。そうなると、「肝鬱*」といって、憂鬱でイライラしてのぼせやすく、また、背中の比較的上の方(左右の肩甲骨の間)にだるさや痛みが出るようになります。「気」が上にあがって内にこもるので、頭がカッカしてほてりやすく、下半身が冷える。ムズムズ足*も出やすい。病初期には、ストレスからの感情の乱れ、それに続く不眠・イライラ・背部痛などが主症状として現れます。

「七情の乱れ(シチジョウノミダレ)」

具体的には、思い悩むこと、怒り悲しむこと、喜び驚くこと、恐れることなど感情的になることが挙げられます。

「肝鬱(カンウツ)」

東洋医学的には、肝が十分な機能を果たさなくなると、気が上にのぼり、上半身に熱がこもりやすくなる。頭がほてったり、イライラしやすくなったり、微熱が続いたりする。手足の末梢は逆に冷えます。

「肝臓(カンゾウ)」

東洋医学では、全身的な気や熱のバランスをとるのが肝臓です。バランスが崩れた状態が続くと、ほかの臓器、「腎臓」、「心臓」、「脾臓」などにも障害がおよびます。

ムズムズ足

西洋医学用語。足がソワソワムズムズして落ち着かない、イライラする状態。不眠症の患者に多い症状です。
「肝の障害」→「腎、心、脾の障害」

肝の障害が進んでくると、今度は、「腎、心、脾」など他にも症状が出てきます。「腎」は気力・体力に関係し、十分な機能を果たさなくなると、気力・体力の欠落、表情の硬さ・反応の鈍さなどが出てきます。「心」はイメージ的に心臓*で、動悸や胸のつかえ感、息苦しさ、不安感が出ます。「脾」は消化機能で、脾の障害では食欲がない、吐き気がする、胃潰瘍、便秘や下痢などを生じます。

「心」

東洋医学での「心」は概念的には心臓を指すが、西洋医学でいう心臓とは別物。不眠症・うつ病が重症になったところで、西洋医学検査では心臓の異常を認めることはまずない。高血圧や頻脈、息苦しさや動悸を自覚することは多いが、あくまでも精神的な不安・緊張による影響である。

西洋医学でみた不眠症・うつ病

「ドーパミン不足」→筋肉の疲労感や痛み  「ドーパミン分泌遅延」→睡眠の阻害

西洋医学では、「ドーパミン仮説」で不眠症、うつ病を説明しています。ドーパミンは主に筋肉に分布する物質で、脳神経にも少し分布しています。ドーパミンには筋肉の疲れをとり、動きを良くし、元気を出す作用があり、ドーパミンがたくさんあると、全身の筋肉、どこにも疲れがなく、体も動きやすく、元気で意欲的な状態となります。これが、ドーパミンが少し減ってくると、筋肉にだるさと痛みを感じるようになり、全身疲れて、動きも鈍く、眠たくもなってきます。また、思考力も鈍くなります。通常、朝はドーパミンが大量に分泌され、夕方以降はドーパミンが減ってきます。元気に活動し、夜になると自然と眠るようにできています。

「不眠症・うつ病患者の生態」 

ところが不眠症やうつ病になると、朝に極端にドーパミンが少なく、体が全く動かない。ひどい場合は、起きてしばらくはトイレにも行けない。全身、強烈なだるさがあり、肩や首、あるいは腰に強い痛みがある。思考も鈍く、生命力やエネルギーといったものが湧いてこない。ただ、少しするとドーパミンが少量ではあるが出てくるので(早ければ数分、遅くとも昼過ぎ)、やっと体と頭が少し動き始めます。布団から出て、トイレにも行けるようになります。ただ、倦怠感や体の痛みは引き続きあって、しんどい中、無理して頑張っている感じです。夕方4時や5時になると、ドーパミンも増え、ようやく午前中よりましになってきます。ただ、夕方になってドーパミンが増えるせいで、自然な眠気というのがありません。体の疲れや痛みはあっても、変に頭が冴え、中途半端に意欲もあって、落ち着かない感じで、布団に入ったにしても一向に眠れません。頭がほてったり、手足が冷えたり、そういう症状も睡眠を妨げます。ドーパミンが減少に転じるのは明け方4時や5時で、その頃にやっと寝付けます。
「ドーパミン」←→「セロトニン・インスリン・エストロゲン」

ドーパミンはセロトニンなど他のホルモンにも影響を与えます。ドーパミンの不足はセロトニンなどに影響しますし、逆にセロトニン等の不足はドーパミンに影響します。

「セロトニンの特徴」

セロトニンは主に胃腸に分布する物質で、胃腸の動きを活発にします。ほかに、脳神経にも少し作用し、不安を鎮める作用があります。従って、過剰だと吐き気や下痢、欠乏すると胸のつかえ感や息苦しさ、不安感や焦燥感を生じます。セロトニンが不足すると、心配症で色々と思い悩むため、不眠症にもなります。長引くと、不眠症を通じて、二次的にドーパミンの欠乏を生じてきます。ほか、セロトニンは、エストロゲンに影響されるので、女性の方がセロトニン欠乏を生じやすい。

「インスリンの特徴」

インスリンは食欲を制御する物質で、欠乏すると食欲不振を生じます。そもそもお腹が空かない、無理して食べても砂を噛んでいるようで美味しくない、そういう状態になる。逆に過剰だといつも空腹で、いくら食べても満腹感がない。ご飯も美味しくて、いつも食べることばかり考えている。慢性的なインスリン過剰が糖尿病。一旦糖尿病になると、余計に過食と肥満を助長する。血ドーパミンが欠乏すると、糖値が上がることや糖尿病になることはないにしても、インスリンの働きは鈍ります。

「エストロゲンの特徴」

エストロゲンは女性ホルモンで、欠乏すると月経前症候群、月経不順や更年期障害を生じます。女性は月経前になるとエストロゲンが低下し、個人差はありますが、イライラ感と情緒不安定、不眠、体の重さ、頭痛・腹痛・体の痛み、ほてりや冷え、空腹感と過食を生じます。更年期障害でもほとんど同じです。エストロゲンが減少すると、特に、セロトニンに与える影響は大きい。

「セロトニン欠乏型不眠症」と「ドーパミン欠乏型不眠症」

セロトニン欠乏型の不眠症患者は、病初期には、落ち着きがなく、愚痴とも不満ともつかない些細な訴えを一方的によくしゃべり、また感情的で表情にも富みエネルギッシュに見えます。相手をする側の人間のほうが、逆に疲れてしまうぐらいです。これは、ドーパミン欠乏型の不眠症患者が、表情も硬く笑うことがなく、口数も少なく、動作や反応・思考が鈍く、見るからに疲れている・しんどそうに見えるのとは真逆です。ただ、セロトニン欠乏は不眠症を伴うので、慢性的な不眠症はドーパミンを枯渇させるため、病状が長引くと最終的には、ドーパミン欠乏型の不眠症患者と似通ってきます。

「生体リズム」

生体には数時間のリズム、1日のリズム、1か月のリズムがある。例えば、インスリンで制御される空腹感は、数時間のリズムがある。ドーパミンとセロトニンは、日光のある時間に活動し、夜は休むという1日のリズムを作りだす。エストロゲンは月経周期を作るが、これは1か月のリズムである。体内時計とはよく言ったもので、丁度、時計でいうと秒針、分針、時針の関係にある。インスリンが秒針を制御し、ドーパミンが分針を制御し、エストロゲンが時針を制御している。どれかひとつの針が壊れると、ほかの針も狂いだす。無事ではいられない。インスリン、ドーパミン、セロトニン、エストロゲンはそういう関係にある。